僕の全部を君にあげる(マモツナ)
ツナ←マーモン(原作ベース、マーモンいない感じ、マモ子供設定)
仕事に追われてあまり丁寧に話を聞いてやることができなかった。
だってその子供はいつもふらりと気紛れに現れては何が楽しいのか仕事に追われる綱吉を見ていたから。
お気に入りのアンティークの椅子を引き寄せて、綱吉のデスクから少し離れた場所に座って。
厚めの文庫本を読みながら、時々差し込む日差しに目を細めて。
黒いフードつきの制服は暑くないかと聞く綱吉に「幻術で僕の周りだけは涼しい」のだと鼻を鳴らした。
だから――。
そのときだって同じだと思っていた。
「ツナヨシー」
「んー、何だよー」
イタリア語で書かれた書類に綱吉は必死だ。英語もイタリア語も何とか日常会話くらいはしゃべれるようにはなった。
だけど書類の、特に文語的な表現には未だに苦労している。
陽気な日差しが大きな窓から入り込んでいた。 お気に入りの椅子に腰掛けた少年が自分の名前を呼ぶ。
厚い文庫本を膝の上に置いた。はらりと、残像を残して薄い紙が舞う。
「僕が死んだら君にすべてあげるよ」
財産もおしゃぶりも全部、と少年は突飛なことを言った。 綱吉は思わずペンを止めて少年を見る。
髪と同じ色の瞳がまっすぐに自分を見ていた。思いがけず真剣な表情に綱吉は息を飲み込んだ。
「はは、何不吉なこと言ってんだよ」
思わず誤魔化すように笑ってしまう。
人が死ぬのには慣れていない。
ましてや自分の関わった人間が死ぬなんて、それが例え過去に自分たちと戦ったことのある人間だって、嫌だった。
そこで小さな子供は考えるような仕草をする。
「そうだね。不吉なことだよ。僕は大人しく殺されたりなんかしてやらない」
小さな少年が負けず嫌いな子供の仕草で口唇を噛み締め、すくっと立ち上がった。
黒いコートにも似た服が風をはらんで翻る。真っ黒な少年が綱吉の傍に立った。
死神。
ふとそんな言葉が思い出される。
マフィアが黒いスーツを身に付け、ヴァリアーが黒い制服を身に纏うのは、人の命を奪うからだろうか。
その少年の命を奪う存在がいるだなんて、そのときの綱吉にはどうしても思えなかった。
「……」
綱吉はおずおずと少年の名前を呼ぶ。
黒い少年が笑った。
本当に嬉しそうに、だけと、少しだけ寂しそうに。
小さな手は日に焼けないで白い。白い指先が、綱吉の髪に触れた。癖の強い感触を確かめ、指先に焼き付ける。
そのまま、小さな手が椅子に座ったままの綱吉を引き寄せた。耳元で囁くような声が響く。
懇願するように。
祈るように。
「だから僕が殺されたときにはよっぽどのことがあったと思っていい。
君は僕のものじゃない。だけど、そのときくらいは僕のことで悲しんで、怒って、泣いて、泣き狂ってよ」
お願いだよ、と、 柔らかな感触が綱吉の髪に触れた。
もっともそれもすぐに離れていってしまったのだけど――。
*
戦場で綱吉は主をなくしたおしゃぶりを額に抱いた。
むき出しの地面には壮絶な戦いの痕が残っている。土が抉れ、高い草木がそこらかしこに倒れ込んでいた。
馬鹿だよ、馬鹿だ! 本当に大馬鹿だっ!!
悲しくないわけがない、怒らないわけがない!
泣かないわけがない――!!
あの時もしかしたら少年は自分の運命を知っていたのかもしれない。どうやって知ったかなんて判らない。
あるいは同じ幻術使いの男に聞けば判るのかもしれなかったが、今更それを聞くことに意味があるようには思えなかった。
どうして自分はあの時もっと少年の話を真面目に聞かなかったのだろうか。
どうしていつもの戯言だなんて思ったのだろうか。
「10代目……」
優しい声が躊躇うように綱吉を呼んだ。
「――すぐに準備を」
「はい!」
端的な声に男が踵を返す。綱吉は少年の残したものを胸に抱き立ち上がる。
そうだった、まだ危機は去っていない。 後悔している時間は自分たちには残されていなかった。
ならば自分がすることはただ一つだ。
後悔しない未来を作ること。
どれだけ時間が掛かっても、誰も死なない未来を作ればいい。
たとえそれが世界に神に反することであっても。
だから――。
「今は少しおやすみなさい」
そう呟いた言葉がゆっくりと戦いの痕の残る風に溶けていくのであった。
おしまい
まぁ、雰囲気重視で!マーモンはツナが好き。それが愛情でも友情でも、家族愛でもいいのです。

家庭教師(1)













































