March 15, 2009

傷跡(ヒバツナ)

雲雀×ツナ

昼休み――。

綱吉は校舎裏の壁に寄り掛かって、ずるずると座り込んだ。冬に近い気候はけして暖かいものではなかったけれど、冷たい壁が今は気持ち良かった。

よっし、午前中は何とか乗り切ったと思う。

カタンと横に置いたのは簡易の救急箱。小さな綱吉の家庭教師に「ボスの自覚があるのなら一つぐらい持っているべきだぞ」なんて押し付けられたものだったけれど、あってよかった。
山本や獄寺君に頼めば、包帯ぐらい巻いてくれるかもしれないけれど、だからって頼むってのも気が引けるし。友人なんだ、心配させることが判っていて、傷なんて、できれば見られたくないっていうのが本音だ。

保健室に関しては。

そこで、綱吉は遠い目をする。

シャマルが男の傷を見ようなんて思う日が来ようものなら、先に地球が崩壊するかもしれない。やっぱ、自分でなんとかしないとなぁと思い、シャツの胸元を広げようとすれば、人の話し声が聞こえてきた。――って、タイミング悪っ!

「お、ダメツナじゃん」

しかも、よりにもよってクラスメイトかよ。

「そういや、今日体育どうしたんだよー。見学なんて」
「ダメツナだからサボりかー? でも、珍しいよな」

体育は着替えのときに傷がばれるから見学ですなんて、言えるわけがない。

「それにしてもここで何してるんだ? 獄寺が探してたぞ」
「え」

それは、まずい。
せっかくここに来た意味がなくなってしまう。

「その、黙っといてくれないかな?」
「ん、喧嘩したのか、別にいいけど」

それ以上深く踏み込んでこないクラスメイトに、綱吉は安心する。昼休みだって限られた時間だ、何かを言い合いながら去っていく彼らを見送って、綱吉は溜息を漏らした。
ふう、びっくりした。
傷の手当をしているときでなくて良かったと思う。上手く誤魔化す自身なんて、まったくないし。

それにしても、痛いなぁ。
リボーンだって、もっと手加減してくれればいいのに。

真っ青な空には、雲がふよふよと浮かんでいる。
シャツを開き、綱吉は腹に巻いていた包帯を外していく。

修行なんていやだ。痛いし、怖いし。戦いなんて恐ろしいし。リボーンは容赦なんて言葉、きっと知らないし。何で、みんな、あんな風に戦えるのだろう。人を傷付けることを怖いと思わないのだろうか。自分を痛めつけて何が楽しいのだろうか。否応なく、オレの戦いに巻き込まれて、リングなんて渡されちゃって。

本当に判っているのかよ。
みんなオレなんかの守護者だなんて言われちゃって、獄寺君なんか本当に嬉しそうに笑って、お兄さんなんて、「負けない」なんて宣言しちゃって。

――全部オレのせいで。

だったら、オレが泣き言言うわけにはいかないじゃないか。
怖くても、恐ろしくても、痛くても。

「……うう、でも、痛いや」

包帯には血が滲んでいる。
傷口に張り付いた感覚は好きじゃない。剥がす時に痛むのだって、本当は嬉しくない。
綱吉は無意識に口唇をかみ締めた。腹にはたくさんの擦り傷が出来ている。何度も同じところを擦って治ることがない。包帯をしているのは、血がシャツに滲まないためだった。だからこうやって一日に何回も換えることになる。
新しい包帯を綱吉は取り出した。病院や薬局といった匂いが鼻に付く。早く終わらせないと誰かが来ると思えは思うほど、上手く巻けないでいた。

「君、本当に不器用だね」
「……っ!!」

巻いていた包帯が、緑の芝生の上転がっていく。
更に溜息が降ってきた。突然上から掛けられた言葉に、綱吉は恐る恐る空を仰ぐ。窓から覗きこむようにして自分を見ているその人と目が合ってしまった。漆黒の瞳がこっちを見ている。同じく真っ黒な髪が秋の風に靡いた。

「ヒ、ヒバリさんっ!!」
「見ていてイライラするんだけど」

それなら、いっそ見ないで欲しい。
気の向くままにしか行動しないいつものヒバリさんらしく、何もなかったように立ち去って下さい。だけど、並盛中の風紀委員長様の「気」はどうにもこっちに向かってしまったようで。

「何、君、傷だらけじゃない」

じっと、見詰められる。
そんなヒバリさんのシャツから覗く腕にも無数の傷が走っているのが見えてしまった。

――っ!!

そうだよな、ヒバリさんもどんな気まぐれかリングを受け取ってくれたわけで、ディーノさんと特訓してるんだし、それくらいの傷――。それくらいの傷、ヒバリさんだったらどうってこと、ないわけ……が、ないよな。

だったら、やっぱりオレが一人で痛がってるわけにもいかないんじゃ。

綱吉は立ち上がると、ズボンに付いていた土を落とし、緑の芝生に転がっていた真っ白な包帯を手に取る。怖いけど、あの時見たXANXUSは思い出すだけで震えが来るけど。――真っ直ぐに立ちたいと思う。この人たちを見ていると。愛想笑いを見せれば、ヒバリさんが奇妙なものを見るような顔をした。

「君変わったね」
「へ?」

変わったって、何のことだろう?
見詰めれば、ヒバリさんがはぁっと息を吐くのが判った。
いや、別にヒバリさんに返答を期待していたわけじゃないけどさ。だけど、立ち去ろうとした綱吉の背中に掛かった声はもっと驚くものだった。

「で、包帯も巻かずに君はどこ行くの?」


――それで、何で、いったい、こんな展開になるんだよー!!

外からは生徒たちの遊ぶ声が聞こえてきている。差し込む日差しは、少し暖かい。昼休みにも関わらず、応接室は静かだった。群れるのが嫌いなヒバリさんらしく、風紀委員の人間はこの部屋には殆ど訪れないようだった。いや、まぁ、その完璧なヒバリさんの私物化なんだけど。

ヒバリさんと知り合って何度かここに来る機会はあったが。
今日なんて、ヒバリさんが包帯巻いてくれちゃってますよー!!!

「動くと咬み殺すよ」
「は、はい、すいません!!」

革製のソファに腰掛けた綱吉は、男の邪魔にならなういように自分のシャツの裾を持ち上げている。ヒバリさんが器用な手付きで、新しい包帯を巻いてくれていた。漆黒の髪の真ん中に、旋毛が見える。何となく珍しい角度に、綱吉は開いている手で、その髪に触れた。

「綱吉」
「へ?」
「動くと咬み殺すって言ったよね。君のこれは、飾り物?」
「……っ、痛っ!!」

思いっきり耳を引っ張られた。

すいません、無意識でした。
いや、だって、本当に真っ黒だなーとか、触れたら気持ちよさそうだなーとか。
びくつけば、ヒバリさんがその綺麗な眉を寄せる。包帯を巻ききって、最後の部分を綺麗に処理してくれた。自分で巻くよりも、ぴたりとしたそれに感動すら覚える。

「あ、ありがとうございます!」
「別に、君があまりにも不器用でイライラしただけだから」
「それでも、オレじゃこんなに綺麗に巻けないですから」

シャツを握っていた手を離す。くしゃくしゃになったそれを気持ち程度に伸ばし、綱吉はボタンを留めた。男がそんな自分を見下ろしている。

「いったい、君は何をしているわけ?」
「その、リボーンと特訓です。オレ、弱いから傷ばっかり増えますけど。まぁ、見えないところで良かったかなーと思います。山本や獄寺君に心配掛けたくないし」

ははっと笑えば、ヒバリさんの顔が不機嫌に歪んだ。
え、ヒバリさん、怒ってる?

「へぇ、山本や獄寺君ね」

やばい、この人群れるの嫌いだった――っ!!

自分の迂闊な言動に、綱吉は慌てる。最後までボタンを止め切って見上げれば、ものすごい近くにヒバリさんの男の顔が合った。

な、何? 

男の手が、綱吉の身体を挟むようにして、ソファの背凭れに置かれる。腰を折るようにして近付いてきた男の口唇がゆっくりと開くのが見えた。肩口に何かが触れ、綱吉は肩を竦める。

柔らかな感触が、シャツにちょうど隠れる首筋に触れた。



――って!

「――痛~~~~~~~~~~~いっ!!!!!」

噛み付かれたのだと知ったのは、暫くだってからだった。それほど、痛い。思わず、綱吉はかまれたその部分に右手で触れる。指先でも判るほど、付いているのは見事な歯型だった。泣き出しそうだ。思わず思い浮かぶのは、ランボの泣き顔だったりするのだけど。

「な、な、な、何すんですか! ヒバリさんっ!!」
「だって君は傷付いていいんでしょ? どれだけ傷付いても、隠れているところなら君の大切な仲間にも心配掛けないから構わないんでしょ? 本当にイライラするよ、まったく」

珍しく言葉に感情が篭っている。
噛み付いた体勢のままどかない男を、不思議に思った。

「もしかして怒ってたりしますか、ヒバリさん」
「誰が怒ってるの」

どすの利いた声に、思わず身体が引き気味になる。
今の声は、さすがに怒ってると思うぞ。
だけど、その中に少しだけ拗ねたような音があったのは、気のせいじゃないかもしれない。綱吉はさっき触れたように、恐る恐る男の頭に触れた。漆黒の髪が、綱吉の指を滑る。振り解かれないことに、少しだけ安心した。

「その、心配してくれたんですか?」
「何ソレ、自惚れないでよ。君はよっぽど咬み殺して欲しいみたいだね」
「ははは」

触れる息がくすぐったい。
盛大な溜息とともに、ヒバリさんの腕に抱き締められた。

「他の誰かが傷付いているからって君が傷付く理由にはならないよ」
「えっ」
「どうしようもないほど鈍くて、どうしようもないほど自分のことに無頓着な君のことだから、大方そんな風に考えてるんじゃないの?」
「……っ」
「そんなのホント余計なお世話だよ」

誰が君に傷付いて欲しいなんて言ったの、なんて。
そのまま、どうしてか、綱吉の身体がゆっくりとソファへと押し倒された。

え、え、ヒ、ヒ、ヒバリさんっ!?

けして力強くは見えないのにヒバリさんの腕が振り解けない。ソファの軋む音が広い応接室に響く。……んっ。まるで親猫が子猫にするように頬を口唇で触れられた。何度も飽きることなく口付けが繰り返される。シャツのボタンが外され、さっき男が噛み付いた場所に、男の舌が再度触れた。ざらっとした感覚に、無意識にゾクッとする。

「ここ、赤くなってるね」

って、誰のせいだと思ってるんですか!
ヒバリさんがさっき噛み付いたんじゃないかと、文句を言いたくなる。

「ん、ヒバリさん……」

だけど、漏れた声は自分らしくなく甘い音で。
オレ、なんていう声出してんだよっ。慌てれば、ヒバリさんが不敵に笑った。


「それと、今この瞬間から僕の前で他の人間の名前出すの禁止だから」


おしまい。
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自分の怪我には無頓着そうな綱吉さん。ヒバリさんはずっとイライラなのです。

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Personal Category: 家庭教師 Topic: creation / literature / ghost-story
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