March 15, 2009

バレンタインデー(ヒバツナ)

[バレンタインデー]雲雀×ツナ

結局ビアンキのポイズンクッキングのせいで、京子ちゃんとハルのチョコレートは綱吉の家に買い置きしてあったクッキーで食べることになった。ちょっと甘かったけれど、十分に美味しかったし、楽しかった。  
目を閉じて思い返せば、京子ちゃんの可愛い顔が浮かんでくる。寝巻きを着て自室のコタツに潜り込む綱吉に、リボーンが溜息を吐いた。

「いつもより百倍は馬鹿そう顔だな。それよりも、お前に客だぞ」
「へ? こんな夜中に?」  

思い掛けない言葉に、綱吉は目を開く。  
すぐ目前に迫っていたのは、靴の裏だ。

「って、うわ――っ!」  

窓が開いて、視界の端でカーテンが揺れた。大きな靴の裏をギリギリのラインで避ければ、頭のすぐ脇に 足が降ってくる。衝撃で床が揺れるのに、頭の中がシェイクされるような感覚を抱いた。

「な、なんだよ~」  

仰向けになって恐る恐る見上げれば、思った通りの人がいた。こんなことする人は、一人しか思い付かない。漆黒の髪に、漆黒の瞳。どこまでも深い闇をたたえる瞳は時々吸い込まれそうで怖いけれど、それ以上に綺麗な人だと思う。上げられるだけ口端を上げて、剣呑な表情が綱吉を見ていた。  覗き込むようにしてヒバリさんがしゃがみ込む。相変わらず顔はいいのだと見蕩れていれば、逆さの格好のまま、男の唇が綱吉の唇を塞いできた。

「……んっ」  

まず上唇がヒバリさんのそれに挟まれる。  
次にかさついた感覚を馴染ませるように、赤い舌が 下唇に触れてきた。黒い学ランが夜の闇に混じる。視界が闇に埋め尽くされ、ヒバリさんという存在に覆われたような、そんな気がするから不思議な感じだ。

「まぬけな顔。でも、暖かいね」
「ヒバリさんが、……冷たすぎる、ん、ですよ」  

ヒバリさんのその身体も、見慣れた制服も、二月の冷たい風をはらんでいる。唇を触れ合わせたまましゃべるものだから、振動がくすぐったかった。それが微妙な感覚となって、綱吉をじわりじわりと煽っていく。

「んん……っ」  

頬が紅潮する。  
寒いのに熱くて、変な感じだ。  
でも、この変な熱にオレは夢中になる。  

ヒバリさんは口唇をなかなか離そうとはしなかった。くちゅくちゅと濡れた音が、賑やかさの消えた部屋に響く。唾液が口端を伝って、カーペットの鮮やかな色に滲んだ。

「部屋中、甘い匂い」  

少しだけ眉を寄せて、ヒバリさんの口唇が離れていく。名残惜しそうに見ていたのかばれたのか、ヒバリさんが珍しい表情で苦笑した。って、この人、今更に靴なんて脱いでるよ。

「それにしても、まったくだらしない格好だね」
「い、いいじゃないですか、自分の部屋なんだし!」
「食べてすぐ寝ると牛になるよ」
「ちょうど太りたかったからいいんです!」  

大体冬なんてコタツにもぐって寝転んで生活するのが、日本人っていうものだと思う。ぷいっと視線を逸らせば、口の中に何かが突っ込まれた。

「…………ぐぇ」  

思わず蒸せてしまう。

「な、なに、するんですかっ!」
「太りたいって言うから協力してあげたんじゃない」  

って、これって、もしかして――。  

ミルクチョコが口の中でパリンと割れた。
仰向けって格好は、何かを食べるには適さない格好だ。
思い掛けないヒバリさんの行動に動けないでいれば、後ろから二本の腕が差し込まれた。そのまま抱き起こすようにして抱え込まれる。ヒバリさんの顔がすぐ近くにあった。綱吉は声を上ずらせる。

「あ、あの、ヒ、ヒ、ヒバリさん……っ?」
「寒いんだよ、僕が。君って気が利かないよね。普通こういう時って、君がお客様にコタツに入るように勧めるもんじゃないの?」
「勝手に窓から入ってきて、誰がお客さんですかっ」  

人のこと踏みつけようとしたりしたくせに。  

コタツに長い足が強引に入り込んできた。
子供にするようにして、後ろからヒバリさんにぎゅうっと抱き込まれる。まるでぬいぐるみにでもなった気分だ。綱吉は思わず口の中に入れられたチョコを飲み込んでしまうくらいに驚いた。  
リボーンはいつの間にかいなくなっている。  
何ていうか、いつも周到だ。

「ちゃんと食べた?」
「食べましたけど」
「美味しかったかい?」
「そりゃ、甘くて美味しかったですよ」  

とはいえ、正直、まだ咽喉の奥に甘い塊が引っかかっているような気分だ。
ヒバリさんはいつも唐突で、自分なんかには到底理解できない行動を取る。  
背中越しにヒバリさんの心音が響いていた。ヒバリさんの白いシャツは冷たい空気をまだ孕んでいて、ちょっと冷たい。だけどそれ以上に、感じるこの人の熱に、綱吉の頭は沸騰しそうだった。こっそりと見上げれば、ヒバリさんが凶悪な笑顔で笑った。

「それは良かった」 「は、はぁ?」
「それを徴収された女の子も喜んでるよ」  

誰にあげるつもりだったのか知らないけれど、それは呪い殺されそうだ。
ごめんなさいなんて、綱吉は心の中で思わず謝ってしまう。
そんなこと知ってか知らずか、ヒバリさんはご機嫌に笑った。

「じゃあ、お返しを三倍返しで貰おうか」
「へ?」  

それって、女の子が言う言葉じゃ。  
というか、ホワイトデーはまだずっと先だ。  

ヒバリさんの長い指が、後ろから伸びて綱吉の顎に掛かった、真っ直ぐな黒髪が綱吉の頬に掛かる。綱吉の淡い栗色の髪と混じって、鮮やかなコントラストを描く。薄い口唇が二度目のキスを求めてきた。

「本当だ。うんと甘いね」
「ん、んんっ」  

さっきより僅かに性急に、男の舌が入り込んでくる。
口腔を丹念に刺激され。上半身を捻るような格好で、綱吉は男の身体に縋った。  
膝から下に力が入らないで、体重を掛ければ、ヒバリさんの手が背中に触れてくる。柄物のパジャマを掻き分けて、するりとそれは入り込んできた。

「ねぇ、綱吉」
「……ん、ヒバ……リさ、ん?」  

ヒバリさんの口唇が、顎に、首筋に、煽るように触れて行く。
鎖骨を齧られて、綱吉は身体を震わせた。

「これって、チョコが甘いのかな、それとも君が甘いのかな」
「そんなの……オレ、知りませんよ……っ」  

こうなってくるとコタツに入っている下肢が熱い。じんわりと身体中に汗が滲んだ。身動きが取れないものだから、余計に息苦しくなるのかもしれない。

「そお? じゃあ、もっと確かめないとね」  

綱吉の返答に男がその目をうっそうと細めた。  
ズボンのゴムを緩めるように、ヒバリさんの手が移動する。見えないコタツの中で動き回るそれに、綱吉は堪らず背中を逸らした。


「――っ、たっ!」  


ゴツンと、こたつに背中をぶつけてしまう。  
ヒバリさんが笑った。

「馬鹿だね」
「って、ヒバリさんがこんな体勢で、こんなこと、しようとするから悪いんじゃないですか……っ!」
「君はこんな、ばっかりだね。言ったらいいじゃない」
「え、な、なに……」  

男が耳元で囁く。  
ズボンに潜り込んだ指先が、なだらかな肉を伝って、その奥に忍び込んだ。覚えのある感覚に、綱吉は両目を開く。ヒバリさんのシャツにしがみ付く指が、小刻みに震えた。滑らかな背中を汗が伝う。

「……あ、や、やぁ、ヒバリ……さん……」
「僕が君とセックスをしようとするから、って」
「……っ!」  

ちゅっと、言葉とはそぐわない甘さで、綱吉の耳朶に男が口付けた。
ヒバリさんの指先がその部分に触れた。
指先が入り込む。

「ここは熱いね」  

そんなのはコタツに入っていたのだから、当たり前だと言いたい。言いたいのに、口から漏れるのは熱っぽい息だけだった。ゾクゾクと身体が震えるのを、綱吉は止められないでいる。振動に併せて、コタツが揺れた。熱が漏れて、綱吉の部屋の窓を曇らせる。

「んん、んん……っ」  

無意識に延ばした腕をヒバリさんが引き寄せてくれた。密着する身体にホッとするとともに、より熱が上昇する。男もその端正な額に汗を掻いていた。  綱吉は男の口唇に、自分のそれを合わせた。

「綱吉……」  

ヒバリさんが僅かに驚いた顔を見せる。次に口端を上げて、抱き寄せてくれた。  
口唇を触れ合わせたまま男が笑う。

「君とチョコ、どっちが甘いかなんて知らないけど」
「ん……」  

僕はこっちでいいよ、なんて口説かれるのだった。


*  


結論――。  

[ヒバリさんが一番心臓に悪い。]  

というか普段がビターなだけに、時々見せられる甘さが、すっごく甘く感じられるに違いない。

「胸焼け気味か」
「そうだよっ!」  

何か騙された気分で、綱吉は答えた。

「って、リボーン! どこにいたんだよっ!」
「オレは馬に蹴られるのはごめんだからな」
「おや、赤ん坊、久しぶりだね」  

って、あんなことしたあとに、普通に挨拶を交わさないで欲しい。扉から入ってきたリボーンに、向かいに座ったヒバリさんが笑顔を見せた。

「それで、いつ僕と戦ってくれるのかな」
「そのうちな」  

ん?  
リボーンの手に抱えられた物に、綱吉は目を剥く。それはさっき冷蔵庫に入れたはずだったのに。近所のお婆さんが、お礼にとくれたチョコレートだ。

「それよりも、ヒバリ」
「なんだい」
「これをツナは可愛いお嬢さんに貰っていたぞ」

「………………へぇ」  

あ、何か、微妙な間。  

ヒバリさんがゆっくりと綱吉を振り返る。

「えっと、その、街でちょっと人助けをしましたら、そのお婆さんがくれました」
「ワオ、素敵な言い訳だね」
「う、嘘じゃありませんってっ!」  

絶対疑ってるよ、この人っ!  
というか、それならオレだって、ずっと気になっているものがあった、
ヒバリさんがこの部屋に来て、オレの机の上に置いてあるもの。別にそれがどうだとか言いたくはないけれど、あまり嬉しいものではない。ピンクのリボンが掛けられた、チョコレートだ。何となくどこかで見たことあるような気がしたけど、思い出せなった。

「っていうか、ヒバリさんだって、貰ってるじゃないですかっ!」
「それは関係ないよ」
「じゃあ、オレだっていいじゃないですかっ!」
「君は、その前に他の女子から貰っているだろう。こんなにも部屋に甘い匂いをさせてよく言うね」

「って!」  

何か言い返そうとして、綱吉は言葉を止める。  
そう言えば、部屋に来たときにヒバリさんは甘い匂いって言ってたような。眉を寄せていたのは、嫉妬してくれていたからだったりして。伺い見れば、ヒバリさんがむっとした顔を見せた。  
リボーンが呆れたような顔をする。
ほふっと一つ欠伸を漏らして、二つのチョコレートを並べた。

「まったく、どうせなら皆で食うぞ」
「あ、あぁ」
「う、うん、そうしようか」  



思い掛けない夜食は、甘かったけれど。  
それは幸せな一日だった――。




おしまい(アニメベースで!)

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