夏の残り。(獄ツナ)
[夏の残り。君の体温。] 獄寺×ツナ
相変わらずオレの部屋は散らかっていて所々にCDや漫画が無造作に転がっている。
かろうじて空いた空間に二人で座っているのだけど、片付けておけばよかったと、オレは後悔した。
獄寺君がオレを見ている。
片付けておけばこんなにも近くに座ることにはならなかったはずなのに。
明日提出の英語の宿題を教えてもらっていた。
山本は最近試合が近いせいで部活動が終わるのが遅い。
リボーンはビアンキと愛の逃避行中だ。
愛の逃避行ってなんだよと聞いたら「気分よ、気分、まぁ、お子様には判らないでしょうね」とビアンキに鼻で笑われた。
ランボたちは近くの公園に遊びに行っている。 母さんはさっき買い物に行くって出て行った。
この家に。
オレ、君と、二人……きりだ。
夏休みが終わって変わらない日常風景が戻ってきた。
9月に入ったと言うのにまだまだ暑い。 温暖化現象か何だか知らないけれど、早く涼しくなればいいのに。
暑いと頭がぼおっとして訳が判らなくなるから好きじゃない。
ほら、今だって、そうだ。 暑いからオレは何も考えられない。
何も変わらない日常風景の――。
オレと獄寺君の関係だけが変わってしまった。
「10代目……」
隣に座って、自分と同じようにベッドに背中を預けて、獄寺君の自分を呼ぶ声は掠れていた。
骨ばった咽喉が上下するのが見える。 大きな手がオレの緊張する肩に触れた。
同い年なのに自分の手とは何もかもが違う。
骨が浮かんで、関節がはっきりしていて、色白いのにごつごつしてて。
獄寺君の手は大人のそれを思い出させた。
「獄寺君……」
応じる自分の声だって掠れている。
これじゃオレは獄寺君のことを何も言えない。
心音が急速に高鳴る。 沈黙は居心地が悪くて、でも心地好くもあった。
肩を抱く手のひらにさっきより力が入る。 少しだけ二人の距離が縮まった気がした。
暑い。
汗が噴出しそうだ。
もっとエアコン効かせておけばよかったと、オレはまた後悔する。
「その……」
せっかくかっこいい顔しているのに、真剣な顔をしてオレを見る獄寺君は少しかっこよくない。
だって眉を中心に寄せて、口端を噛んで、何かを堪えるようにしてこっちを見る目尻は赤く色付いている。
だけど、その顔を見れば見るほどドキドキして、オレは訳が判らなくなる。
あぁ、やっぱり前言撤回だ。獄寺君はかっこいい。
「今日はキスしていいですか……」
「……どこに」
「その、10代目の口に、したいです」
昨日は鼻だった。その前は瞼だった。その前は額だった。
夏休みのある日――。
ふざけたようにして触れた合ったその部分は手のひらだったはずなのに。
獄寺君が「10代目の手は小さいですね」って言うのに意地張って合わせて。
その結果、獄寺君の手の大きさに悔しい思いを抱いたのはつい最近のことだったはずだ。
そのあと拗ねる自分の手の、その中央に獄寺君はキスをくれた。
皆を守ってくれる、オレの永遠に守りたい手です、って。
二人っきりになるたびに獄寺君の触れる範囲が広くなっていく。
オレは込み上げる何かを堪えるように息を飲み込んだ。 咽喉が渇く。
さっきジュースを飲んだばかりなのになんでだろう。 なんで、こんなに、息苦しいのだろう。
「いいよ」
「……ありがとうございます」
そんなに嬉しそうな顔をしないでよ、獄寺君。
そんなにホッとした顔で笑わないでよ。
肩を引き寄せられる。 バランスを崩しそうになって、オレは獄寺君のシャツを掴んだ。
眩い日差しが入り込んできている。 獄寺君の淡い日本人にはないその髪が日差しを弾いた。
キラキラ、キラキラ、と輝くそれにずっと見惚れていれば苦笑される。
「10代目、目を閉じてくれませんか?」
「あ、ご、……ごめん……っ」
「10代目の瞳はとても綺麗でいつも見ていたいのですが」
あまり見られていると心臓が壊れそうなんです――と。
口唇がそっと重ねられた。
初めは何だかよく判らなかった。 ただ柔らかなものが触れていると思った。
その柔らかなものは少し濡れていて、動くたびに小さく水音が響く。
「ふ……っ、ぁ……」
丹念に啄ばまれ、吸われて、舐められた。 角度を変えて、何度も何度も、それを繰り返される。
不思議と気持ち悪くはなかった。 君と触れて、オレは気持ちいと思っている。
そう、ずっと君が触れるたびにそう思っていたんだ。
表面で触れるだけのそれが、ゆっくりと離れて行く。 ちゅくっと、明るい日差しに淫靡な音が融けた。
暫く現実感が湧かないでオレはぼおっとする。 口唇と口唇が触れることを何ていうのだったかな。
そう、「キス」だと思い出して、オレは慌てる。
「ご、ご、獄寺君……っ!」
「10代目、その、柔らかくて、すごく気持ちよかったです」
「………………………………っ!!!!!」
オレ! 獄寺君とキスをしたの!!!???
狼狽するオレをよそに獄寺君の手のひらが肩を滑って、ぎゅうっと抱き締められた。
しかも、何、この格好は!
まるで抱き合っているようではないかと思ったとき――。
オレは君のその手が震え、重なった胸元が自分よりも早い音を伝えてくるのに気付いてしまった。
オレは顔を真っ赤にする。 きっともうゆでだこだ。
身体中真っ赤でこれ以上真っ赤になることなんてできないってくらいに真っ赤になってる。
どうしよう。 オレと同じで君も緊張してるのだと思ったら。
何だか嬉しいなんて。
「獄寺君……」
「何ですか?」
応じる獄寺君も真っ赤だった。二人とも真っ赤になっておかしい。 視線があって二人同時にごくりと息を呑んだ。
綺麗な灰色の髪が真昼の日差しに照らし出されている。 グリーンの瞳は爽やかな夏の色だと思った。
「よく判らなかったから……」
もう一度して、と、オレは強請る。
獄寺君は盛大に驚いた顔をして、そのあと本当に嬉しそうに笑った。
だから、そんなに嬉しそうな顔しないの。 つられたようにオレも笑った。
「光栄です」
暑い日がまだまだ続いている。
オレたちの関係は変わってしまって。
だけど、最近はそれに慣れつつあるオレがいるんだ――――。
おしまい!

家庭教師(1)













































